心と体

社会的時差ぼけ

「週末だけ夜更かし」は心臓に負担

「明日は休みなんだから、今夜ぐらいゆっくり飲ませてよ」「ため込んだ漫画を徹夜で読むぞ!」みたいなことは良く耳にするし、たしかにわたしも若い頃はやっていたかもしれません。「せっかくの休みなんだから寝ないのはもったいない」と思っていた時代。皆に半ば変人扱いされるけれど、最近のわたしは「せっかくの休みなんだから寝ていてはもったいない」と思っているので、目覚まし時計はいつも通りの朝6時にセットされています。さすがに夜更かししたり宴会だったり遅くに遠方から帰ってきたりした翌朝はとてもきつくて、つい二度寝してしまって7時半とかになることはありますが、そのときにはとても損をした気分になります。

そんなわたしですので、この「平日は規則的な睡眠習慣を守っているのに週末になると夜更かししてしまうという人は、心疾患を発症するなど健康を損なう可能性が高まる」という米アリゾナ大学(Sierra Forbushら)の研究報告=“社会的時差ぼけ(social jet lag)”が体内時計を狂わせて健康被害をもたらすことは、簡単に想像できます。

もっとも、平日は規則正しいのに週末だけ乱れるのは、度が過ぎなければかえってリフレッシュになるのではないかなと思う反面、それだけ日頃が禁欲的でガマンしすぎていることも表していることになります。最近のわたしは、日頃から疲れていないので週末が特別ではないのかもしれない、とも感じています。夜に魅力のあることが多すぎる。何もなくて、読書か寝るかしかなかった昔の社会とは明らかに違ってきたにも関わらず、カラダの体内時計は旧態然としたままだから、歪みが生まれているのかもしれません。

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「適量」の在り方

CareNetにたまたま並べられた2つの報告の共通するキーワードは『適量』。

飲酒は適量でも認知症のリスク要因/BMJ

日本人の脳卒中予防に最適な身体活動量~JPHC研究

前者は、オックスフォード大学のAnya Topiwala氏らが、30年にわたるWhitehall II研究のデータを用いた縦断研究の結果、「アルコール摂取は、たとえ適量であっても海馬の萎縮など脳に悪影響がある」と報告したもの。後者は、日本人の多目的コホート研究であるJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)を評価したところ、「日本人では過度の激しい活動は出血性脳卒中の予防に有益ではなく、脳卒中予防には中等度の身体活動量が最適であろう」というもの。

書いてあることはさほど新しい知見でもない気がするのであまりインパクトはありません(前者はこれまで「適量はむしろ何も飲まない人より良い」と云われてきていたから酒飲みには気になります)。ただ、『適量』というコトバが一律な定義になってしまうのが、やむを得ないことではありますが、ちょっと気に入りません。各人各様の『適量』があまりに主観的で(アルコールでは「ほろ酔い気分になる一歩手前」が『適量』だと教わりました)、どうしてもこういう統計学的研究では限界があります。自分に正直に分析したとき、自分にとっての『適量』はやはりあくまでも主観的であるべきで、主観と客観に差があるときに客観的指標に振り回されすぎていると、自分の人生を踏みにじられた気分になります。そんなわたしって、おかしいですか?

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プライドと適応(後)

(つづき)

研修医のころ、うちの病院で一緒に研修を受けた同級生は、「この世界(救急医療)は自分の求める医療の世界とは違う」と感じて、内科から精神神経科教室に入り直しをしました。方や、精神科の研修医になって入院患者とのキャッチボールをしながら、「俺のいる場所はここではない」と感じて、救急医療の門を叩いたわたしの元ボスの生き方もあります。ノーベル賞をもらうような優秀な学者さんは総じて不器用で、テキパキなんて程遠い仕事ぶりです。

それでいいのではないか・・・自分が今の仕事の質に合わないと感jじたならば、辞めてもっと自分に合うものを探しても間に合うのではないか。メンタル不調で復帰できない皆さんをみていると、そんな思いにかられます。

ところが、「そんな簡単な問題ではないのだ」と担当者から教えてもらいました。そこには、自分が自分の実力を発揮できない不甲斐なさの感覚を許容できないという自分の問題ももちろんあるのですが、それ以上に『世間の目』が大きいのだと。家族の期待、周囲の羨望の目が大きいのです。難関を突破して日本でも有名な大企業に就職できたとか、有名な一流病院の職員に採用されたというので 、家族や親戚のみならず近所の人たちにまで祝福されて意気揚々と就職した手前、辞めると挫折したと思われるから平然と辞めることはできないのだと。これは、とても大きな壁かもしれません。「自分はここには合わないと判断した」と息巻いたところで、世間では「あそこで通用しなかった」「ついていけなかった」と評価される・・・全くもって理不尽な越えられない高い壁が立ちはだかる。困ったものです。何から始めたら、この壁を越えられるのでしょうか?

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プライドと適応(前)

職場の衛生委員会でメンタル不調の職員の話になりました。わたしは産業医として他の企業の従業員のメンタル不調の対応もしているので、意見を求められました。

わたしの正直な感想は、『身体を壊してまで今の仕事にしがみついていても何の得もないので、若ければ若いほど、早く辞めればいいのに』です。もちろん、不調の誘因は千差万別です。仕事に慣れないまま自分の力はもっとあるのに十分発揮できていないと感じている人。同じ職場の上司にいじめられたり叱られたりするのでだんだんイヤな気持ちになった人。大きな失敗をして自信をなくしてしまった人。などなど。

医療の現場では、救急医療をそつなくこなせる人間の方が優秀で格が上だという評価を受ける風潮が昔からあります。特にうち職場のような世間的にも認められた高いレベルの病院では、「それができて一人前」という機運が昔からあり、皆がその水準に達しようと努力を惜しまない空気があります。でも・・・合うか合わないかという点では、きっとそれは間違いだと思っています。もう30年弱、ここでずっと働いてきたわたしだから堂々と云えるのかもしれません。もっと落ち着いた場所で、じっくりと取り組んだ方が実力を発揮できる学者型の人。瞬時の判断でテキパキと救急をこなすよりも、一人の患者さんにしっかりと寄り添ってあげられる人間性の高い人。そんな優秀な人材なのに救急現場で適応できずに挫折するのは、そんな世間の風潮が邪魔しているのではないかと思います。「救急をテキパキこなせられる人は、そんなことくらいその気になれば簡単にこなせるはずだ」と世間は勘違いしています。全然違う道なのです。 (つづく)

 

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乳製品のこと

抗加齢医学会総会の話題も今回までにします。

国際医療福祉大学の太田博明先生のお話『健康寿命延伸のためのロコモ・メタボ予防に対する乳類とMBPの効果』をランチョンで選んだのは、典型的なアンチ牛乳派のわたしを論破してくれるような内容が聞けるかと思ったから。でも、残念ながら途中でついうたた寝などしてしまいました。牛乳を完全否定する気はありませんが、牛乳の風評被害が風評被害であることを証明するデータを並べているのを聞きながら、それはきっと正しいのだろうけれど、それが牛乳でなければならない根拠が分からないという部分が理解できなかったのが残念でした。

そういうわけで、その内容に言及はしませんが、実はその翌日の実地医科スキルアップセミナーで京都大学名誉教授の和田洋巳先生が云われたことの方が印象に残りました。和田先生はもともと消化器外科医でしたが食事でがんを治す治療に目覚めて実践している先生。その先生に「当然、ヨーグルトとか牛乳は大事ですよね」と質問した人がいて、そのときに即答されたのです。「あまり意味がないと思います。乳製品はカラダがアルカリ性の環境にならないと骨に吸収されず大部分が大動脈壁に付着します。乳製品はそれ自体が酸性になる環境が多いので、乳製品だけで骨密度を高めるのはほとんど期待できません」と。

その真偽は存じませんが、とても理論的に話される和田先生のコトバにはとても説得力がありました。『和田屋のごはん』を買って、読んでみようかしら。

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なぜ、内臓脂肪か?

引き続き、先日の第17回日本抗加齢医学会総会の話題から。メタボリックシンドロームの第一人者、慶應大学の伊藤裕先生の講演『メタボエイジングとイムノエイジング結ぶもの』をランチョンセミナーで拝聴しました。

食べすぎと老化やメタボの関係はずっと云われてきましたが、善玉脂肪が悪玉化するのに黒幕になっているのが炎症反応で、その中心になるのが腸管であり腸内細菌であるという、新しい概念がにわかに割り込んできました。なぜにメタボは皮下脂肪ではなくて内臓脂肪が関わるのか? 内臓脂肪というのは腸の周りにある腸間膜に付いた脂肪のことですから、腸と隣接しています。実は、高脂肪食を食べるとごく早期から腸管に炎症が起き、マクロファージが呼び寄せられて炎症反応が活発化することによって腸管粘膜を障害してバリア機能を破綻させるのだそうです。動物実験では、高脂肪食を大量に取らせると炎症によって腸の長さが短くなることが示されました。1ヶ月で大腸の炎症を起こし、それが隣接する肝臓の炎症を誘発し そこから内臓脂肪に炎症が及ぶという理屈でメタボが発症するのではないかと、伊藤先生は説明されました。高脂肪食でなくても何かを食べると腸管で炎症が起き、食べないと炎症が落ち着くのだという。つまり、腸管で起きる炎症は太っていなくても起き、逆に 腸管に炎症さえ起きなければ太っていてもメタボにはならないことを強調されました。

さて、ヒトが食べたものをエネルギーに変えるか炎症反応をもたらすかは、腸内細菌が決めるということがわかっています。例えば、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸は腸内バリア機能を低下させ、腸管免疫担当細胞群の機能を低下させます。また腎臓の働きと腸の働きはいつも連動していて、腎不全の人の腸管には萎縮が見られます。腎臓が悪くなると腸も悪くなり、腎臓が良くなると腸も良くなる、あるいは腸が良くなると腎臓も良くなるということから、その何れもが腸内細菌の仕業だということがわかってきたそうです。

なかなか興味深いはなしですが、奥底に一層難しい関係が隠れていそうで、わたしの理解力ではここまでが限界でした。ま、要するに『メタボでは、筋肉を鍛えるよりも腸を鍛えろ、ということですね』と総括した座長先生のことばが全てかもしれません。

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笑いの抗加齢効果

先日参加した第17回日本抗加齢医学会総会の教育講演で、福島県立医大の大平哲也先生がレクチャーしてくれた『笑いの抗加齢効果』は、とても楽しかった。笑うことのココロとカラダに及ぼす影響の科学的根拠を披露していただきました。

●人は歳とともに笑わなくなる。男性80歳以上のうち、毎日笑う人は1/4だけで全く笑わない人が1/3もいる。
●笑わない人ほど認知機能が低下する。笑わない人ほど外出しないので身体機能も低下している。
●声を出して笑うことが『笑う』である。歳とともに『は』の間隔がゆっくりになる。若い人は「ははははは」と笑うが、年寄りは「はっはっは」と笑う。
●笑うことによって、アレルギーが改善し、EDも改善する。笑う人は脳卒中や心筋梗塞になりにくく、糖尿病の血糖コントロールがうまくいく。笑っていない人ほど糖尿病になりやすい。
●笑いの運動効果~15分笑うと40カロリー消費できる。100回笑うと15分のエアロバイクの運動量に匹敵する。笑っていると消費エネルギー量が2倍に増える。「笑いすぎるとお腹が痛くなる」は腹式呼吸の証である。だから、『笑いながら歩く』のがよい。結婚するときは笑いのツボが同じ人を選ぶべきである。 笑いのリラックス効果によって、脳卒中予防や認知症予防の成果が報告されている。
●笑いは、家族や友人と話しているときに最も多いし、人と人のつながりが多いほど増える。
●笑いは増やそうと思えば意識するだけで増やせる。
●面白くなくても、ただ笑うだけでも十分な効果があることが、インドの『笑いヨガ』によるストレスホルモンの減少効果で確認されている。

おもしろい。みなさん、思う存分実行されたし。

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脂肪肝のもたらすもの

ここに来て日経メディカルが脂肪肝の記事をまとめて出しています。

「たかが脂肪肝」じゃないんです

糖尿病第4の合併症「脂肪肝由来の肝硬変」

要するに、ウイルス肝炎でもなく、アルコール性でもない脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患)に将来肝硬変や肝臓がんを誘発するものがあって近年一気に増加してきているというのに、当の本人だけでなく一般臨床現場の医師も甘く見すぎているという警鐘です。メタボや糖尿病では必須のアイテム『脂肪肝』は、本当は危険なのにすぐに慣れてしまう特徴があります。ウイルス性肝障害やアルコール性肝障害はターゲットがはっきりしているのでまだやる気を起こさせられますが、主犯が食べすぎ・飲み過ぎ・運動不足の非アルコール性脂肪性肝疾患は数多の共犯者だらけなのですぐに逃げ腰になりますし、糖尿病などがあれば完全なる言い訳になります。痛くも痒くもないからちゃっかり共存してしまう存在。ところが、非アルコール性脂肪肝の1割が10年後には肝硬変になり、その中から肝臓がんが生じるということは数年前にはすでに医療現場の常識なっていたはずです。脂肪肝はかなり進行しないと肝酵素の値が上昇しませんし、重篤な肝硬変などになるとかえって酵素の値は低下してしまったりします。

幸い、人間ドックでは必ず腹部超音波検査がありますから、脂肪肝の有無は簡単にみつけられます。腎臓の色と比べて差がないのが本来の肝臓の姿ですが、脂肪肝になると余ったエネルギーを脂肪細胞にして肝細胞内に詰め込んだ”フォアグラ"状態を作るので白く変化します。ぜひ、自分の検査結果を確認してください。なにしろこれは、腹を空かした挙句にさらに食えなかったときにやむを得ず使う最後の砦の貯蔵庫ですから、自分をいじめてやらない限り絶対に出ていきません。ちょっとくらい痩せても減りません。

これからも、結果説明をするときにとことん嫌味を云って、その気にさせるように頑張ろうと誓いました。

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がんになった彼

同級生ががんの手術を受けました。どうも妙齢になってきて、あちこちでがん罹患のはなしを聞くようになりました。彼の場合は、開腹手術ではありましたが早期発見だったので部分切除術で済んだと聞いています。術後経過も順調で、おそらく転移などの可能性も低いだろうと思われます。

そんな彼が、先日の宴席で「ボクは、酒とか飲んでいても大丈夫なのかな?」と不安気に相談に来ました。日頃から不摂生していたわけでもないのに、どうして自分はがんになったのかと悩み、これから何をしたらいいのだろうかと不安になっている様子が窺えます。

悪いことをしていなくてもがんにはなるのです。今や2人に1人はがんに罹る確率なのだからがんになったことは大した問題ではない。最近の芸能人のがん宣言の頻度が急に多くなっているのは、皆が人間ドックなどを受けるようになって早期診断が付くようになってきたからではないかと推測します。重複がんを何度も患った末に亡くなった同級生もおりましたが、彼のような特異体質でない限り、早期がんなら大部分は後腐れなく治ります。むしろわたしの身体のように全身が動脈硬化のカタマリでいつ頓死するか分からない人生を送る方がはるかにココロが重い。早期がんはそこだけ取り除いてしまって、あとは活き活きとした人生を送れば過去の思い出でしかありませんが、わたしの動脈硬化は一生の足枷で、治ることのない不治の病・・・絶対にこっちの方が大変だと思います。

「あんたは心配しなくても大丈夫だよ」と一緒に酒を酌み交わして、一笑に付しました。

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紫の光と近視の関係

第17回日本抗加齢医学会総会の理事長提言で慶応大学の坪田一男先生が話された『光環境とアンチエイジング医学』の中で、やはり一番ショッキングだったのは『バイオレットライトと近視』の話でした。『ブルーライトとサーカディアンリズム障害・生活習慣病の悪化』についてはもはやわたしの中では常識中の常識なのですが、「光の中から紫色が消えると近視になる」ということも「窓を閉めた瞬間、紫色がカットされる」ということも初耳でした。

近視になるのは眼球の長径が長くなって焦点を網膜上に合わせられなくなるためですが、紫色の光がその眼球が長くなるを抑制する効果があるのだそうです。だからバイオレットライトを目に浴びると近視になりにくい、近視を進行させにくいというわけです。ところがこの紫色の光、窓ガラスでカットされてしまう。窓を開ければ室内でも存在しているのに、窓を閉めた瞬間に消えてしまうのです。

今、世界的に近視が急速に増えています。それはなぜか。子どもたちが外で遊ばなくなったから。窓を閉め切って家の中で遊ぶから。「一日に2時間外で遊べば、近視にはならないのです。あるいは窓を開ければいいのです」と坪田先生が強調されました。でも、大気は汚れまくり、外で遊ぶと変な輩に連れ去られる危険性もあり、今や子どもを一人で外に出すこと自体がナンセンスだと云われる時代です。子どもが外で遊べない環境にあるのです。むかし、わたしたちが子どもだったころ、目が良いのは勉強もせずに本も読まずにバカみたいに遊んでばかりいるからだ、と親に叱られたものですが、理由はそうではなかった。

さらに、バイオレットライトは窓ガラスだけではなくて、めがねのレンズ越しでもカットされてしまう。コンタクト・レンズも一部を除いてカットされてしまうそうです。だから、『めがねをかけると近視が進む』なんてナンセンスな俗説だと患者さんの訴えを一笑に付していましたが、実は大正解だったようなのです。・・・そうか、そうだったのか。

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