心と体

常識だと勘違い(2)腎性低尿酸血症(前)

ということであらためて簡単にご紹介します。

今年の4月に世界で初めて『腎性低尿酸血症診療ガイドライン』というのが作成されました。ここでも一度紹介したことがあります。

尿酸が血中に多いと痛風になるとか動脈硬化が進むとかで皆が知っていますが、方や低い方はせいぜい尿管結石を引き起こしやすいことくらいしか気にするものがないから医療者でも問題視していませんでした。ところが、運動後に急性腎障害を起こす原因のひとつに血中尿酸値が低い『腎性低尿酸血症』があることが分かってきたのです。尿酸は抗酸化物質なので、運動で発生した活性酸素などを中和する作用を備えています。それが少ないと腎血管の収縮が強くなって血流低下(虚血)が生じるのだと説明されています。

わたしはプロスポーツ選手並の強烈な運動をしない限り大丈夫だと思っていましたが、短距離走やサッカー、自転車競技などの比較的短時間に強い無酸素運動をした後1~48時間程度で背部痛や吐き気をひき起こすそうで、意外に一般の運動好き人間たちも罹患しているかも知れません。尿量は減らず色も赤くないし、採血検査をしてもあまり激しい筋破壊所見がないのが特徴というのは知っていましたが、非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)服用後の運動で起きやすいというのは初めて知りました。基本的に運動大好き人間は常にあちこち傷めていますから、消炎鎮痛剤の常用をしている人は少なくないでしょう。  (つづく)

| | コメント (0)
|

常識だと勘違い(1)

わたしが予防医療の世界に入ってきた16年前、目に入るものがことごとく新しい内容で新鮮でした。臨床をやっていた頃には知らなかったことがてんこ盛りで、健康講演などで話すネタに事欠きませんでした。なにしろ、自分が驚いて「すごいでしょ!」というトーンで話していましたから、講演するのが楽しくてしょうがなかった。ところが、最近、あまり心が躍りません。「へえ」と思うことは都度都度にあるのですが、情報を一、二度見てしまうと、もうその時点でその情報は世間でも常識になっていることだと思い込んでしまうのです。テレビなどでやっているのをみると、もうこれは世間一般の皆さんが知っている内容だから、「どうです、すごいでしょ?」とかいう上から目線で話していると、「そんなこと、知っとるわい」と苦笑いされるのではないかという恐怖心に襲われます。だから、あまり講演をするのが楽しくなくて、できるだけお断りするようになってしまいました。

今回日経メディカル2017.7月号に掲載されていた項目の『運動後急性腎障害の陰に低乳酸血症』とか『中高生に広がる「スマホ睡眠障害」』とかをさらっと眺めながら、どれも知っていることばかりだから真新しくないな、と読み流しかけていたわけですが、『腎性低尿酸血症診療ガイドライン』の記事の中に、「ガイドラインを出すまでは、医者の間でもこのような疾患があることすら知られていなかった」と書かれていて、ハタと気がつきました。わたしたちは専門領域の最先端医療のことはあまり知らないけれど、予防医学の情報は最初のマニアックな時期から耳に届き、目に飛び込んできています。自分にとって常識でも、世間が常識として認識するためにはかなりの年月と啓蒙活動が必要であることを意識して、「今ごろそんなこと偉そうに云ってるんですか?」と馬鹿にされるまでは偉そうに云い続けることこそがわたしたちの使命だと再認識させられました。

| | コメント (0)
|

7つは多すぎ

血圧改善のためのシンプルな7ステップ

むかしから医療現場ではこの「7つの・・・」が鉄則です。あるいは「10個の〇〇」。脳卒中にならないための10の生活習慣、健康で長生きするための7つの生活習慣、●●の7つの法則・・・そんなのと同じように、アメリカ心臓協会(AHA)が提唱する“Life's Simple 7”も発表されて数年経ちます。これの成果の研究が「Hypertension」6月26日オンライン版に掲載されたということでCareNetに報告されていました。

「禁煙」「健康体重の維持」「健康的な食事」「身体活動の継続」「血糖値の管理」「脂質値の管理」「血圧値の管理」・・・この7個の健康的な生活習慣を続けると高血圧リスクが低減する、というものです。

これをシンプルで簡単な生活習慣として並べることに異論はありませんが、シンプルで簡単ではないのは、「この7つをすべて行うこと」です。実際、研究対象の米国黒人の中に、7個全てを守っていた人はひとりもいなかったのです。まあ、当たり前といえば当たり前ですかね。「全部でなくてもいいからひとつでも多く励行するほどリスクが下がる」ということを云いたいのだと思いますけれど、この手の生活変容に関わる項目は7つとか10個とか多ければ多いほど、「わたしには無理」と投げ出しがちです。できたら、病気の定義の『○○の3原則(Trias)』みたいに、簡単な最低限の3つくらいに厳選してもらえないものかしら。

でも、なんか最近どうもこの「7つ」ははやりなのようです。たとえば、『完訳 7つの習慣―人格主義の回復』とか、『"夏の宿題地獄"を楽々クリアする「7つの手」』とか。

| | コメント (0)
|

家族の変化と脳卒中

家族の増加で脳卒中リスクは増える?~JPHC研究

最近はやりのJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)です。日本人のビッグデータから解析される日本人の疫学データです。「日本人の家族構成の変化と脳卒中発症を検討したところ、家族(とくに配偶者)を喪失した男性は脳梗塞リスクが高く、一方、家族(とくに親)が増えた女性は家族構成が変わっていない女性より脳出血リスクが高かった。PLOS ONE誌2017年4月13日号に掲載」と書かれています。

・家族を一人失うと脳卒中リスクが増加し、特に配偶者を失うと男性では脳梗塞、女性では脳出血が有意に高くなった。
・女性は、親を家族に迎えると脳卒中リスクが増加した。
・配偶者の喪失に他の家族の増加が伴うと男性では増加した脳卒中リスクが消滅したが、女性ではリスクが増加した。

ま、さもありなんの結果だと感じます。基本、男は『さびしんぼ』で一人では生きていけない。女は(親の同居問題はもちろんですが)自分のペースで好きに生きていたい。そんな感じでしょうか。配偶者の四十九日法要が済んだ後、とかく男は萎んでしまい、女は前より若返る・・・語弊があるかもしれないから軽はずみなコトバで普遍化はできませんが、少なくともわたしの周りの皆さんを観察していると、そんな印象をうけております。

| | コメント (0)
|

除菌のメリット

「除菌しなくていいですよ」

わたしが15年近く受け持っている受診者の女性が悩んでいたので、そう答えてあげました。75歳近い彼女がピロリ菌抗体検査を受けて陽性だったために「ピロリ菌除菌治療依頼書」(医療機関に持っていけば除菌治療が受けられる様に発行させた紹介状)を受け取ったそうで、そのために治療を受けるべきかどうかかなり悩んでいたのです。

実の姉を胃がんで亡くして間近い彼女ですし最近胃の調子が良くないことを訴えてはいましたから、本来なら1週間の内服治療だけで済む除菌治療を勧めるところではありますが、何しろ薬剤を受け付けない体質の彼女。ヨクイニンや精神安定剤の類いでも調子が悪くなったり動悸がしたりして続けられないことがよくあります。抗生剤や消炎剤の服用を1週間継続することがどれだけ至難の業か想像が付きます。でも真面目な性格の彼女は、飲むべきものを飲めないことに罪悪感を感じて、自分は胃がんになるしかないのかと悩みかねません。

それでなくても頻回に胃カメラを受けている彼女にとって、この歳でそんな思いまでしてピロリ菌除菌に固執する意義はきわめて低いと考えています。世の中、「ピロリ菌が陽性なら速やかに除菌すべきだ」という風潮ですし、「除菌しないといつ胃がんになるかわからない」「除菌できれば胃がんリスクがなくなる」と勘違いしている人も少なくないようです。若いヒトの除菌は明らかに胃がんリスクを低減させる(除菌できても胃がんにはなります)から無理してでも除菌を勧めますが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を繰り返しているわけでもない高齢者にとって、除菌の成功と生きている間に胃がんにかかる確率とにはほとんど相関はないのではあるまいか。若い世代ほど除菌の意義は高いけれど自分ががんに罹ると思っていない世代だから興味がなく、今から除菌しても萎縮性胃炎が消滅するとは思えない高齢者ほど切実な想いでリスク低減に心を悩ます。半端な情報はかえってストレスを増やすのではないかと考えさせられる経験でした。

| | コメント (0)
|

ポジティブサイコロジーのメルマガ

そのむかし、日本抗加齢医学会の学会員に登録したころ、「先生、そんな怪しい学会には近付かない方がいいですよ」と何人かの先生に忠告を受けたものです。『アンチエイジング』が、ここまで知名度を上げ、予防医学の中心的存在になるとは思いもしなかったかもしれませんが、わたし的には想定の範囲内でした。この学会から派生したものに、「日本ポジティブサイコロジー医学会」という学会があります。

これがまたマニアックです(笑) 「人生、ポジティブシンキングで前向き思考すれば健康になる」「幸せは健康をもたらす」という概念・・・もともと精神科を志して医者になった自分にとって、この世界はワクワクする世界なのですが、ただいかんせんアウトローなので、学術集会も精神科領域の関係者を中心に小さな研究会みたいな感じ。毎年、学会参加させていただくのですが、身内感満載の空気の中で、外様感に包まれながら丸一日を過ごします。それでも、参加する学会の中では、一番得るモノが多い学会です。

そんな学会からメルマガが発行されるようになりました。ポジティブサイコロジーに関する興味深い論文の概要の紹介です。マニアックですし専門的で和訳がちんぷんかんぷんのもありますが、なんか積極的でまさしくポジティブな取り組みだと思いました。6月号の内容は、

1)他者のためにお金を使うことは心臓に良いのか?
2)主観的幸福感、うつ症状、神経症傾向に関連する遺伝的バリアントを同定
3)慢性疼痛治療におけるマインドフルネス・ストレス逓減法の効果
4)人の世話をすることは致死率低下と相関する
5)人生の意義と日々のストレッサーに対する適応力
6)感謝の気持ちと幸福感に関する日々の日記による検討

どうです。マニアックでしょ♪

| | コメント (0)
|

座位生活の弊害

座ったままの時間が長いと血液がドロドロに 立ち上がって運動すると改善

書かれていること(「体を動かさないで座ったまま過ごす時間が長いと、血液がドロドロになり、動脈硬化が進みやすくなる」)は以前から云われてる内容で、何も目新しいことはありませんが、「座位中心の生活は喫煙と同じくらい悪い」「座ったままの生活は喫煙にも似た悪影響をもたらす」という云い方は、行動変容をもたらすのに有効なキャッチフレーズかもしれないと思って読みました。

昨年の熊本地震や今回の大水害などで避難所に居るヒトや車中泊のヒトに多発した『エコノミー症候群』・・・動かないで同じ体位のまま長時間を過ごし、さらに水分補給を制限すると足に血栓ができて、それが肺に詰まって肺梗塞を起こしたりする病気・・・が有名になりました。あの概念を思い出せば、この長時間座位と血液ドロドロの関係は容易に理解できることでしょう。記事の最後に<オフィスワーカーが身体活動量を増やす工夫 >というのが羅列されています。書かれてることはよく分かりますし、以前はわたしも講演でよく話していた内容ですけれど・・・思い出してください。いつも云っているように、「人間には運動欲がない」「運動はしなくていいなら絶対にしない」のです。動かないと肺梗塞で命に関わるぞ!と脅してあげるのは、たしかに大事なことかもしれません。

| | コメント (0)
|

アイコンタクト

自閉症の人が他人と目を合わせない理由

わたしはやっと最近、相手と目を合わせることができるようになりましたが、ずっとできませんでした。目を合わせた瞬間に胸がモゾモゾしてきて、怖くなるんです。会議中に発言すると皆が一斉に自分に注目しはじめたと分かるときと同じで、身体中から汗が噴き出てくるのが分かります。だから、世間の人が目を合わせられないのは、わたしと同じように、合わせると緊張するからとか相手が何を考えているか分からずに不安になるからとか、そういう理由がほとんどだと思っていました。

一方、自閉症の人が目線を合わせないのは、自分の世界に入り込むために周りとの関係を遮断する目的なのだろうと考えていましたが、今回、この記事を読むと、「自閉症の人は一見、他人との対話に興味がないように見えるが、そうではないことが分かった。目を合わせないのは、脳の特定部位が過剰反応することに由来する過剰な覚醒状態(excessive arousal)の不快感を低減させるための手段であることが明らかにされた」とのこと。これはつまり程度の問題だけで自分たちと同じなのかなとも考えられそうですが、普通の発達系の人とは全く違う脳の活動形態を示すのだそうです。

人間の話でなくて恐縮ですが、自閉症スペクトラムぽい我が家のワンは、よくわたしに顔を近づけてわたしの目をのぞき込んでくれるから、典型的な自閉症ではないのかもしれません。

| | コメント (0)
|

変わらない

「先生、ちょっと相談していいですか?」と保健師さんが鼻息荒く診察室にやってくるときはあまり良い話ではありません。今回は、もう何年も高度肝機能異常が続いている男性受診者のこと。もう10年近く毎年『要治療』の指示が出ていて、毎年受診勧奨をするのだけれど、未だに受診したことがない人。腹部超音波検査で慢性肝障害からやや肝硬変気味の所見が出ている人。保健師さんは熱いココロで、「何とかして受診に繋げさせたいんです」と云う。

でもね、もう10年もの間、ほとんど同じ結果なんですよね。別に良くなってはいないけれど悪くなってもいないんですよ。受診したら、毎晩楽しみにしている晩酌をやめさせられて肝庇護剤を処方されるだろうけれど、それでもせいぜい現状維持。だったら、今の生活を変えたくはないでしょうよ。そりゃ、受診したくはないと思いますし、受診先の先生も親身になってアドバイスしてくれるとは思えないんですよね。

「『良くなってはいないけど悪くなってもいない、まったく変わらないんだからそれはそれでいいんじゃないの?』なんて、そんな甘えたこと考えているんじゃないですか? そうじゃないですよ、今がターニングポイントかもしれないし、ずっとストレスに耐えてきたけどもう限界!て時かもしれないんだから、ちゃんと受診して治療を受けないとどうなっても知りませんよ!」・・・10年前のわたしだったら、絶対そう云ったでしょう。

でも、今は違います。血糖値が5年以上前から全然変わらない糖代謝異常の人とかも同じだけれど、悪化することなく維持できているのは、日頃の生活療法がうまくいっているからに他ならないわけで、無理して医者にかからなくてもいいんじゃないのかしら? もちろん、明日何かが起きるかもしれないけれど、それは医者にかかっていても同じ確率なんじゃないかと思うんです。素直にそう云ったら、保健師さんにとってもイヤな顔をされました。

| | コメント (0)
|

肝機能異常

健診で精査や治療の指示を受けた項目の中で、一番未受診者(紹介状をもらっても受診していない人)が多いのが『肝機能異常』だと思います。劇症肝炎やウイルス性肝障害を除けば、基本的に生活習慣の改善しか対処法がありません。画期的な治療法はなく、クスリをもらうわけでもないのに、わざわざ金を払って受診するとは思えません。受診しても、どうせ云われることは分かっているのですから。

健診をする側の思惑とは裏腹です。わざわざ金を払って叱られに行くはずがないから、なかなか難儀です。「そんなこと、云われんでも分かっとるわ!」「やってるけど、全然良くならんのやないか!」・・・受診者の皆さんの気持ちはわかります。それに対して、それでも努力が足りないのだ!と突っぱねられそうだから、「症状が何もない」と言い訳して受診しないでいるわけでしょう。

非アルコール性脂肪肝による肝障害=NASHが現代社会の問題点としてクローズアップされ、「医者が放ったらかしているから、健診機関が厳しく云わないから、脂肪肝が悪化するのだ」と叱られますけど、放ったらかしているわけじゃないのです。受診勧奨も危険性の説明もしっかりしているけれど受診しないのだもの、しょうがないじゃない。ま、少なくとも、わたしが当事者になっても受診はしないでしょう。何の得もないから。「自分でやれるもん」「やるしかないもん」「体質だから仕方ないもん」「やってはいるけど難しいもん」「ま、いつもより悪くなってないならいいんじゃないの」・・・いや別に他人に云ってるんじゃなくて自分に云って聞かせているんですけどね。いやあ、難儀、難儀♪

| | コメント (0)
|

より以前の記事一覧