『さりげないエスコート』
定期の広報誌が予定通りに発行されたので、いつものように掲載されたコラムを転載します。
**************************
『さりげないエスコート』
先日、学会出席のために上京しました。山手線の電車に乗っていたら、新橋駅のホームに白い杖を持った目の不自由な女性が佇んでいました。先頭に並んでいたひとりのお嬢さんがそれに気付いて声をかけ、さりげなくその女性の手を引いて一緒に電車に乗り込んできました。カッコいいなと思いました。さらに次の駅に着く少し前に、今度は別の若い男性がその女性に近づきながら、「席が空きましたけど、座りませんか?」・・・声を掛けながら、そっとエスコートします。言葉に恩着せがましさがないのがいいなと思いました。都会では個人主義の人が多いと聞きますが、一方でこういう優しい心遣いが日常生活の中でさりげなくできる人もたくさんいるのだということを目の当たりにしました。彼らは本当に輝いて見えました。
ある研修会で「ペーシング」という会話の方法を教わりました。これは「相手のペースに合わせる」というやり方です。同じ視線で、同じ声のトーンと大きさと速さで、あるいは同じ雰囲気で・・・できるだけ相手のそれに合わせて調和させると、相手の心も開きやすくなって会話がスムーズになるというのです。「いつでもゆっくり落ち着いて対応すればよい」というのでは、もし相手が急いで慌てている時ならば苛立たせてしまうでしょう。そんな“空気”を感じ取るためのスキルが「ペーシング」です。私も仕事柄、そういうスキルをいろいろ学んで実践しようと努力しているわけですが、あの電車の若者たちの自然な立ち振る舞いを見てしまうと、何かまったく次元の違うものに感じてしまいました。彼らのそれは仕事でもスキルでもありません。誰かに自分を評価してもらうための行動でもありません。スキルとしての対応術を体得することも大事ですが、人と付き合う上で一番の理想はやはり彼らのようなさりげない優しさが自然に出せる人間になることでしょう。あの優しさはどうやって身に付けたのだろう?幼少期のしつけや環境だろうか?それとも職場や仲間の影響だろうか?・・・そんなことを考えながら、私は目的の駅で電車を降りました。
私たちの職場には多くの若いスタッフがいます。彼らが皆あの若者たちのようになれたら素晴らしいなと思います。初めは仕事のためのスキルでも、それを繰り返すうちに真のエスコートの心が生まれてくるかもしれません。あの若者のような人に出会う、「カッコいいな」と思う、「次は自分もやってみよう」と思う。そうやって優しい空気が連鎖するといいな・・・とても柔らかい心になれた旅でした。
(この文章は2009年に職場の機関誌に掲載したコラムを加筆訂正したものです。あえて職場の許可をもらって今回再掲載させていただきました)

最近のコメント